J.J.サクライ『現代の量子力学』を読むゼミをZoomで開いた話

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去る四月の初め、私は友人と量子論の自主ゼミを開こうと模索していました。新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛をするなか、東京大学では Zoom を用いたオンライン授業に移行することが発表されました。その際、 Zoom Pro のアカウントを生徒側にも配布してもらえたため、それなら Zoom でゼミをやればいいのでは、そう思って参加者を募ることにしました。


ゼミの内容は、J.J.Sakurai 著『現代の量子力学〈上〉/〈下〉』 の輪読としました。授業期間の1,2週目は基本休講とする措置が取られるとのことで、この期間中に集中して読み進め、出来れば5月末には上巻を読み終わろうという思いでスタートしました。

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ゆるふわリー群論入門(6)随伴表現

この記事は、リー群と表現のざっくりふんわりとした解説記事の6本目です。

前回:Broaden His Horizons
cake-by-the-river.hatenablog.jp



今回は、構造定数と随伴表現を考えて行きます。

 

リー環の構造①

構造定数

一般的な群において、限られた群の元さえあれば、その積を組み合わせていくことで群全体を構成することが出来ることがありました。例えば  C_{3v} という群では、  C_3, \sigma_1 の2つの元さえあれば全ての元をこの2つの組み合わせで表せます。このような群の構成に必要な最小の元の組を生成子と呼びます。



これと同じようなことをリー群・リー環においても考えてみます。その例として回転群  SO(3) を考えることにしましょう。



直感として、どのような回転も、 "x軸回りの回転"、"y軸回りの回転"、"z軸回りの回転"の組み合わせを駆使して表現できそうです(これは実際に正しく、オイラー角と呼ばれる)。ということは、回転群における生成子としてこれら3つの回転を駆使すれば出来そうです。特に、微小な回転角の積み重ねで大きな回転角も表せるので、「3方向の無限小回転」が生成子になりそうです。


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そこでまずは、z軸回りの回転を表す行列のリー環を探ってみます。

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ゆるふわリー群論入門(5)連結・普遍被覆群 ~ Broaden His Horizons~

この記事は、リー群と表現のざっくりふんわりとした解説記事の5本目です。

前回:リー環と1パラメータ部分群
cake-by-the-river.hatenablog.jp



今回は、局所構造であるリー環を大域的な部分まで拡げることを考えてみます。「視野を広げる」的な(ふざけたタイトル)。多様体でのリー群の定義・連結性とコンパクトリー群・普遍被覆群と  SO(3) などについてやります。なので、長くて内容が濃いものになりました。

 

リー群の定義2

局所座標

前回は1次元のリー環とその指数関数によって作られた1パラメータ部分群を考えました。その1パラメータ部分群は、より高次のリー環(接ベクトル)に対しても考えられそうです。線形独立なリー環を組み合わせて行けば、2次元・3次元とどんどん高次なリー群を考えることも出来そうです。つまり

 X = X_1 + X_2 + \dots + X_m

と接ベクトルをm個の基底ごとに分解したとき、1パラメータ部分群を拡張するようにしてリー群を作れそうだと言えます。

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ゆるふわリー群論入門(4)リー環・行列の指数関数

この記事は、リー群と表現のざっくりふんわりとした解説記事の4本目です。

前回:多様体と接空間
cake-by-the-river.hatenablog.jp



今回はいよいよリー環についてやります。

 

リー環リー代数

前回は、接空間について考えました。リー群は積に閉じているという特徴を持つので、接空間にも普通の多様体にはない性質があるのかもしれません。


交換子積

リー群上の2つの曲線の積を考えてみましょう。リー群は群だったので、各点における積を考えることが可能です。それを連続的に行ったものが曲線の積だと考えられます。今、  x(t), y(t) という2つの曲線があって、  t=0 における接ベクトルが  X, Y だったとします。この二つの曲線の積としては  x(t)y(t), y(t)x(t) の2つが挙げられます。これらの接ベクトルはどうなっているでしょう?

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