ゆるふわリー群論入門(1)位相群

この記事では、リー群と表現についてざっくりふんわりと解説していこうと思います。大学初年次の微積と線形の数学があれば分かるように進めるつもりです!(そもそも自分もまだ1年生です)

 

量子力学に深く結びついているリー群の世界が学べれば良さそうだと思って、本の内容・考えを自分なりにまとめてみます。図をたくさん載せるので、具体的にイメージできると思います。

 

そもそもは自分の理解のための記事なので、数学的な厳密さは欠けていると思います。内容も網羅するわけではないので、足りないところは本でもっと読んでいただければと思います。

 

 

群論に関して

早速で申し訳ないんですが、群論の内容(共役類・剰余類や表現など)については以前の記事を載せておくのでそちらを見ていただければと思います(同じ説明をしたくないだけ)。もちろん、すでに分かっている!という人はそのままで。

 

 全4回の群論
cake-by-the-river.hatenablog.jp

 

位相空間距離空間

リー群は、位相群と呼ばれる群の一部を指します。位相群はその名の通り、位相をもつ群という意味です。この位相って何?ということを、まずはゆっくり解説していきたいと思います。(位相空間論も分かる人は飛ばしてください)
 

 

距離空間

群とは、積に関してルールのある「集合」のことでした。行列で表現することは可能でしたが、群自体に空間的な要素はありません。点群 C_{3v}

 C_{3v} = \{E, C_3, C_3^2, \sigma_1, \sigma_2, \sigma_3 \}

のように表せる集合というだけで、元同士の「距離」といったものは分からないですよね。

でも、群を行列表現することで距離などの空間的要素を考えることが出来ます。行列の距離というと意味不明な気がしてきますが、行列の要素を全て横に並べたベクトルを考えてみることにします。すると、ベクトル同士の距離として自然に行列に「距離」を与えられることが分かります。

例えば、\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix} の距離は

 \begin{pmatrix} 1-1 & 0-2 \\ 0-2 & 1-3 \end{pmatrix} より

  \sqrt{(1-1)^2 + (0-2)^2 + (0-2)^2+(1-3)^2} = 2\sqrt{3}

と考えられます。



一般的に、ベクトルにおける「距離」と言えば、上でやったような二乗和のルートを考えますね。この意味での距離はユークリッド距離と呼ばれ、例えば2点  x, y に対し、  d_2(x, y) のように表します。一方、京都に代表されるような、格子状に道が存在する空間においては、家から家までの(道に沿った)最短経路の長さを距離として考えたいことも多々あります。そんな時は、次に示すマンハッタン距離  d_1 と呼ばれる距離を考えます。

 x = (x_1, x_2, \dots , x_n), y = (y_1, y_2, \dots , y_n)
 \displaystyle d_1(x, y) = |x_1-y_1| + |x_2 - y_2| + \dots + |x_n - y_n| = \sum_{i=1}^{n} |x_i - y_i|

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このように、様々な距離を考え出すことは出来ます。そうなると、何が距離で何が距離ではないのか、といった「距離らしさ」の基準も考える必要があります。つまり、距離の満たす性質とは何かを考えます。そこで、距離の条件としては、以下の3つを定めることになっています。

距離  d(x, y) に対し

  •  d(x, y) \geq 0, \ d(x, y) = 0 \Rightarrow x = y (距離は 0 より大きい)
  •  d(x, y) = d(y, x) (距離に順番は関係ない)
  •  d(x, y) + d(y, z) \geq d(x, z) (三角不等式が成り立つ)

また、こうして決められた距離の概念を持った空間を、距離空間と呼びます。そうはいっても、基本的にはユークリッド距離を考えていればよさそうです。



さて、距離空間においては距離に関連した色々なことを考えることが出来るようになります。例えば、「ある点の周り」といった概念を「距離が  \varepsilon 以内の範囲」と数学らしく言うことが出来ます。この範囲は  \varepsilon-近傍 と呼びます。つまり、

 a \varepsilon-近傍

 U_\varepsilon(a ; \mathbb{R}^n) = \{ x \in \mathbb{R}^n | \  d(x, a) < \varepsilon \}


1次元空間なら  (a - \varepsilon, a + \varepsilon) の範囲、2次元空間なら半径  \varepsilon の円の内部、3次元空間なら球の内部に相当します。いわゆる開集合や閉集合といった概念は、この  \varepsilon-近傍 を用いて表現することが可能になります。


境界・開集合

例えば、2次元空間(つまり平面)における単位円を考えましょう。普段考えている空間はもちろん距離空間になっていますが、逆に距離の定義された(無数の点の)集合であるとも言えます。そうなると、単位円というのは原点を含む集合とそれ以外とを分割する境界と考えられます。



では、単位円のような「境界」は \varepsilon-近傍 を用いてどう表現すればいいのでしょうか?


私たちのよく考える「The 境界上の点」での \varepsilon-近傍 を考えましょう。どんなに  \varepsilon の値が小さくても、集合の内部と外部とに必ず範囲が出てしまうのが分かると思います。

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 X の部分集合 A の「境界」を考えるとして、まず X A X \setminus A とに分かれます( \setminus は集合の差を表す)。この時、\varepsilon-近傍  U_\varepsilon A, X \setminus A の共通部分が必ず存在するということになります。これを境界上の点であることの条件にしましょう。境界とは、この条件を満たす点の集合を指すことになります。



境界が定義されれば、境界を含む集合と含まない集合とが区別できます。普通に考えれば、境界を全て含む集合が閉集合、境界を一切含まなければ開集合、となりますね。もちろん境界によって定義もしますが、 \varepsilon-近傍 を用いてもっと厳密に定義をすることもできます。

距離空間 X 内の部分集合A

開集合 ^\forall a \in A,\  ^\exists \varepsilon > 0, \ U_\varepsilon (a) \subseteq A


これだけでは何が言いたいのか分かりにくいですが、次のように考えればいいです。


開集合の点は境界上にはいないため、必ず一番近い境界と一定の距離が存在します。なので、どんなに境界に近い点であっても、その \varepsilon-近傍 として境界スレスレなものを考えることが出来ます。そしてそれは内部だけにすっぽり入っている筈だと言えます。


逆に、閉集合は境界を含み切っているので、閉集合の外部の状況は開集合の時と同じになります。つまり、どんなに境界に近い外部の点を取ってきても、境界スレスレな \varepsilon-近傍 を考えられる、ということになります。

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開集合の性質を考えてみましょう。開集合は、言わば境界のない集合のことなので、例えばその和集合も境界がなく開集合になりますし、共通集合を考えても(大体の場合)は境界が存在しないので開集合になっています。ただ、何も交わっていない開集合同士の共通集合は空集合になってしまうので、空集合も開集合ということにします(境界と呼べるものは確かに存在していないので)。


位相

これまでに、距離と  \varepsilon-近傍、境界、開集合などを考えてきました。唐突になってしまいますが、実は距離という概念すらなくても、開集合や境界、近傍といったものを考えることができます。それが位相と呼ばれる概念になります。ただし、目的のリー群は大抵の場合は距離空間と考えますし(行列などで考えるから)、これからの話は今までよりずっと抽象的で分かりにくいので、距離空間の話の延長として考えればいいかと思います。



距離のない集合( \{ a, b, c\} のような)においても、開集合という概念を持ち出すことは可能です。それは、距離空間における開集合の性質であった「和集合も共通集合も大体開集合になる」ことを、逆に「そうした性質を満たす集合=開集合」として定義にしてしまえばいいのです。

ある集合  X に対して、部分集合の集合(部分集合族)  \mathscr{T} が次の3つの性質を満たすとする。

  •  X \in \mathscr{T} , \  \emptyset \in \mathscr{T}
  •  \mathscr{T} 内の有限個の元の共通集合も  \mathscr{T} の元になる
  •  \mathscr{T} 内の任意個の元の和集合も  \mathscr{T} の元になる


このとき、  \mathscr{T} X位相(または位相構造)と呼び、(位相を持つ空間という意味で) X位相空間であるという。また、  X の要素を 点 、  \mathscr{T} の元を 開集合 と呼ぶ。


位相は漠然とした用語で分かりにくいですが、この後説明する連続性やコンパクト性などに関する「情報」の構造と考えれば良さそうです。また、距離空間位相空間の一種であり、位相空間で成り立つことは距離空間でも成り立ちます。なので、位相空間上での分かりづらい抽象的な話も、距離空間で考えてみるのが分かりやすいと思います。



距離がなければ、  \varepsilon-近傍 なんてものは考えられなくなります。それでも「その点の周り」を表現したいので、次のように近傍を定義します。

位相空間  X の点  x に対し、 x \in U となる開集合  Uを、 x近傍と呼ぶ。


もはやその点を含んでさえいれば、近傍ということになります。そうは言っても、 \varepsilon-近傍 も  \varepsilon が極端に大きければ距離空間自体に等しくなりますし、極端に小さい(極限まで小さくする)とほぼその点自身になるので、そういう意味で同様な存在だと考えてもよさそうです。


連続性

リー群を考えるうえで重要な位相空間的要素というのが、連続性になります。連続と言えば \varepsilon-\delta 論法ですね。この論法は、(距離空間なので)\varepsilon-近傍 を利用したものと考えられます。

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\varepsilon-\delta 論法 :  ^\forall \varepsilon > 0, ^\exists \delta > 0, f(U_\delta (a)) \subseteq U_\varepsilon (f(a))

上の図をもとに考えます。まず  f(a) \varepsilon-近傍  U_\varepsilon (f(a)) を適当に決めた後、  U_\varepsilon (f(a)) を値域にとるような定義域の範囲を全て見つけ出します(薄い水色のゾーン)。もし関数が連続であったならば、  a/delta-近傍 で先ほどのゾーンにすっぽり入るものが必ず存在することが分かります。一方もし連続でない場合には、点  a の右側がすぐさま範囲外となってしまうため、  \varepsilon の値によっては、どんなに良さそうな近傍を取ってきても、すっぽり含まれることはあり得ないことが分かります。



さらに距離のないような位相空間を考えた場合でも、近傍を用いて同じように連続を定義することが出来ます。上の例を踏まえれば、「定義域の近傍」と「値域の近傍」の対応がしっかり途切れないでいれば、周辺がつながっている=連続している、と考えられることが連続性の定義に活かせそうです。

位相空間  X, Y写像  f:X → Y で、

任意の  f(x) Y の近傍  V に対して、 f(U) \subseteq V となる 点  x まわりの  X の近傍  U が存在する

とき、 f x において連続であるという。

任意の点で連続な写像連続写像と呼ばれます。また、位相空間同士をつなげている写像  f全単射、つまり1対1対応で逆写像を持っているとしましょう。このとき、写像  f も逆写像  f^{-1}連続写像であるならば、  f位相同型写像同相写像)だと呼びます。さらにその時、  X, Y位相同型同相)であるといいます。


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位相同型の「同型」は、群論の時にも考えた「同値関係」を指す用語でした。位相同型というのはつまり、同じ位相を持つとみなしてよい関係ということです。そして、その時の同値関係の決め手になるのが連続性という訳です。連続写像でお互いが結ばれているならば、どんな開集合を考えても滑らかな対応が存在している(上図)はずです。つまり  X の位相(構造)は滑らかに  Y の位相と対応できている訳で、必然的に同じような位相をしていると考えて良いことが分かります。位相同型の例として有名なものには、コーヒーカップとドーナッツがあります。



位相群は位相構造を持った群の事でしたが、位相群において重要なのは、群の元が連続的に変化できるという連続性の部分だと言えます。


コンパクト・連結性

最後に、位相空間全体の性質をいくつか考えましょう。



距離空間位相空間の一種ですが、実は位相群でよく仮定するような条件は、距離空間よりもう少しだけ広い概念のハウスドルフ空間になります。ハウスドルフ空間とは、どの2点を選んできても、お互いが絶対交わらない近傍を見つけ出せる、という性質の位相空間です。各点を明確に区分けすることが可能な位相空間ということです。位相群では基本的に、ハウスドルフ空間を仮定してしまいます(もっとも、距離空間と考えてもよさそうだけど)。



次に、位相空間のコンパクト性を考えます。

位相空間には、無限の大きさを誇るものがいくつもあります。例えば、実数軸  \mathbb{R}^1 (x軸など)は無限の広さを持っていますね。また、普段は有限の大きさのものであっても、無限の大きさの位相空間と位相同型であることもあります。例えば  (-1, 1) という開区間は、

 f : (-1, 1) → \mathbb{R} , x \mapsto \frac{x}{1-|x|}シグモイド関数風)


という連続写像を用いれば  \mathbb{R}^1 に位相同型だと言えます。長さ2の(端点が開いている)ひもも、ビヨーンと伸ばせば無限に大きくなっていける、と想像すればいいです。


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そこで、無限の大きさを持つか持たないか、つまり、ある範囲内で収まるコンパクトな位相空間かどうかを考えましょう。数学的な定義では、次のように考えます。

位相空間  X の開集合の集合(部分集合族)で、それ全体の和集合が  X に等しくなるものを開被覆と呼ぶ。そして、任意の開被覆に対し、その中から有限個の開集合を選んで和集合をとったもので  X に等しくなるものが必ず存在するとき、 Xコンパクト(空間)であるという。



簡単に言えば、Xをカバーしきれる開集合の集まりのうち、無限個の開集合でしか表現できない事がないときをコンパクトと呼ぶ、ということです。「任意の開被覆で必ず存在」 → 「存在しないことはない」 ということです。実は、ハウスドルフ空間を仮定した場合はもっと簡単に、閉集合か否かだけで考えることが出来ます。実際、開集合の  (-1, 1) は確かに上の意味でコンパクトではなく、  [-1, 1] や単位円周はコンパクトになります。



位相空間全体の性質の最後は、連結性についてです。ざっくりと言えば、何個の分裂した集団でできているか・また集合の中に穴があるかどうかということが分かります。これも一応、数学的にどう定義するのかを書いていきます。

位相空間  X のいかなる開集合  A, B

 A \cup B = X, A \cap B = \emptyset, A, B \neq \emptyset

を満たすことがないとき、連結であるという。


これはむしろ、条件を満たす2つの開集合を考えてみればわかりやすいです。条件を満たすようならば、確実にその二つは分裂して存在していることが分かると思います。(この節の最後に図があります)

また、連結である集合をできるだけ大きく取るようにしたもの(極大な連結部分集合)を連結成分と呼び、その個数によって位相空間の分裂の様子が分かります。

今度は、位相空間内の「穴」の個数を考えることにしましょう。実は、2点間をつなぐルートの連続性という見方で表すことが出来ます。例えば、単位円板があったときに、円板の端から端までをつなぐルートは全て連続的に変形させて作り出すことが出来ます。どのルートも、少しずつ滑らかに変形していけば同じ一直線のルートに帰着できると表現することもできます。また、点同士を結ぶそのルート(弧と言います)も、無限の長さではなく、有限な距離によって構成できます(これは弧状連結と呼ばれています)。



一方で、その円板の中心に小さく穴をあけたとすると、どうでしょう?この時、穴より下側を通過するルートから上側を通過するルートへ連続的に変化させることは不可能です。なぜなら、穴をどこかのタイミングでフッと飛び越えなければいけないはずですが、その変形は連続ではないからです。



このように、位相空間に穴があると、ルートは1種類ではなくなります。逆に、穴がなければルートは1種類しかないと言えます。このことを用いて、穴があるかないかという性質を定義することが出来ます。

連続的に変形して通過することが出来る空間、つまり(弧状連結な空間の)弧全体を考えたとき、それが位相空間全体を成す(自明な)ものだけになるとき、単連結という。


この表現はあまり厳密ではないですが、言いたいことは大体こんな感じだと思います。単連結は穴のない位相空間を表すということです。連結成分・単連結については、次の図を見れば分かりやすくイメージできると思います。

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まとめ

今回の内容は以上で終わりですが、長かったのでざっくりとまとめます。

  • 距離は3つの条件を満たせば様々なものが考えられ、距離をもつ空間は距離空間と呼ばれる。
  • 距離空間で考えた近傍や開集合などの概念を、より一般化した位相と位相空間というものがある。
  • 位相空間では、連続性を近傍によって定義でき、連続性を用いた位相同型という同値関係が考えられる。
  • 位相空間は連結成分に分けられ、また穴がないものは単連結と呼ばれる。

こうした位相空間、もっと言えばハウスドルフ空間の性質を群に適用することが出来たものが、位相群になります。リー群とは、連続性をもった位相群の中でも、さらに微分などの処理も可能であるハイパー解析的な群になります。



今回は主に、リー群のためのざっくりとした位相空間論をやりました。次回は、線形リー群からリー群の説明をしたいと思います。
cake-by-the-river.hatenablog.jp


参考文献

『リー群と表現論』

リー群と表現論

リー群と表現論

『はじめよう位相空間

はじめよう位相空間

はじめよう位相空間