ゆるふわリー群論入門(2)線形リー群

この記事は、リー群と表現のざっくりふんわりとした解説記事の2本目です。

前回:位相群
cake-by-the-river.hatenablog.jp

 

今回は、正則行列で親しみやすい線形リー群を考えてから、一般のリー群とは何かをざっくり見ることにします。

 

一般線形群

群論の第3回あたりで一般線形群について触れました。一般線形群とは正方行列のうち、正則、つまり逆行列の存在する行列の群のことを指すものでした。n次の一般線形群は、成分を実数のみにしたときは  GL(n, \mathbb{R})複素数にした場合は  GL(n, \mathbb{C}) と表します。 GL は General Linear (Group) の略です。




逆行列があるというだけでは扱いづらい条件ですが、「行列式がゼロでない」という条件と同値でした。よって、数式で一般線形群を表すことが出来ます。

 GL(n, \mathbb{R}) = \{X \in M_{n}(\mathbb{R}) \ |\  det(X) \neq 0\}

複素数の時も同じです。よく考えてみると、実数とは複素数の特殊な場合であり、実数の一般線形群複素数一般線形群の特殊な場合になります。つまり、  GL(n, \mathbb{R}) \subset GL(n, \mathbb{C}) という関係があります。



一般線形群位相群だと考えられます。まずはそれを確かめることにしましょう。


そもそも名前に群がついてるから群なんだろ!と思えばそれはそうなんですが、群の満たすべき性質を実際に満たしているかという目線で考えてみます。重要な「積に関して閉じている」という点は、行列の積がしっかり定義されているのでOKですね。単位元単位行列で、逆元は逆行列が必ず存在するように決めたのでOKです。よって群であることは確かです。


次は位相があるかどうかです。これは前回、行列をベクトルに置きなおすことで自然と距離を与えることが出来ていました。実際、行列同士の距離をどんどん近づけていけば、行列も近いものになっていくので、連続性があることも容易に想像できます。よって位相群であることが言えます。


線形リー群たち

一般線形群の部分集合の中には、それもまた位相群になっているものがあります。それらの位相群を、線形リー群と呼ぶことにします。さっそく「リー群」という用語を含んだものが出てきて、近くなってきた感じがしますね!

一般線形群  GL(n, \mathbb{C}) の閉部分群は位相群になり、それを線形リー群とする。

閉部分群というのは、部分群(部分集合であって群の性質を保っているもの)であって(位相空間的に)閉集合なものを指します。深く考えなくてもこれが位相群になってそうなことは分かります。部分群なら群ですし、閉集合ということはもともとの位相空間と同じ位相が含まれていると考えられるからです。位相空間の部分集合が、元の位相空間の位相をおさがりとして受け継いできたものは、相対位相と呼ばれています。



さて、線形リー群にはどんなものがあるのでしょうか?有名なものを取り上げて行こうと思います。ここで紹介する位相群はこの先とっても重要なものになります。


 SL は、Special Linear (Group) の略です。なんだかかっこよく聞こえます。その実態は、「行列式 = 1」を満たす線形リー群です。


 SL(n,\mathbb{C}) = \{X \in GL(n, \mathbb{C}) \ |\ det(X) = 1\}


実数の場合も同様です。常に行列式が1でそこから出ていくことがないため、閉集合であると言えます。肝心の群かどうかについてはどうでしょう?行列式の性質として

 det(X)*det(Y) = det(XY)

が実は成り立ちます。今回の  det(X) = det(Y) = 1 の場合は明らかにその積も閉じていますし、単位行列行列式=1 であり、また上式に  XX^-1 = E と分解したものを当てはめてみれば逆元も存在すると言えます。よって群であることが言えますね。


  • 直交群  O(n) , 特殊直交群  SO(n)

Oは直交の英語 Orthogonal の頭文字です。SOのSが Special なのは言うも更なりですね。この2つは直交行列によって構成されています。 SO(n) はもちろん行列式=1 のバージョンです。


 O(n) = \{X \in GL(n, \mathbb{R}) \ |\ ^tXX = E_n\}
 SO(n) = \{X \in SL(n, \mathbb{R}) \ |\ ^tXX = E_n\}


直交行列は、行列を列ごとに区切って列ベクトルの集まりと考えたときにそれらが正規直交基底を形成しているような行列でした。つまり同じ列ベクトルの内積は1で、異なる列ベクトルとの内積は0になります。このことは転置  ^tX によって上のように簡潔に書くことが出来るのでした。


さて、閉集合であることは何となくわかるので、群かどうか考えます。
 X, Y \in O(n), ^t(XY)(XY) = ^tY^tXXY = ^tYE_nY = E_n

この式から積に関して閉じていることが分かり、あとは同様に考えていけば群だと分かります。

特殊直交群は回転群とも呼ばれています。むしろこっちの方が正式名称感すらあります。 SO(2) , SO(3) 辺りが物理でよく出ます。どうして回転なのかについてはそのうちやると思います。たぶん。


  • ユニタリ群  U(n) , 特殊ユニタリ群  SU(n)

今度はユニタリ行列全体の群です。 Unitary の頭文字ですね。 U(1) SU(2), SU(3) などが物理でも出るかもしれないです。


 U(n) = \{ X \in GL(n, \mathbb{C}) \ |\ ^t\bar{X}X = E_n\}
 SU(n) = \{ X \in SL(n, \mathbb{C}) \ |\ ^t\bar{X}X = E_n\}


随伴  ^t\bar{X} は、  X^* X^\dagger なんて書かれたりもしますね(混乱の元)。ユニタリ行列の実数バージョンが直交行列だと言えるので、  O(n) \subset U(n), SO(n) \subset SU(n) という関係が成り立ちます。

 X, Y \in U(n), ^t\overline{XY}(XY) = {^t\bar{Y}}{^t\bar{X}}XY = ^t\bar{Y}E_nY = E_n
から直交群同様、群であることが確認できます。

特殊ユニタリ群に関連した群にスピン群  Spin(n) というものもありますが、これも後でやることになります。たぶん。


これらの群は、僕がどう使うのかとかよくわかってないのであまり知らないですが、線形リー群には含まれているようです。特にローレンツ群は相対性理論におけるローレンツ変換に不変な群として活用されるそうですね。知らんけど。



以上が線形リー群の主たるメンバーです。リー群を考えるとは言っても、実は基本的にこれら線形リー群についての表現などが物理などでは必要になってくるようです。



また線形リー群は、群の(行列)表現として作り出すこともできます。例えば  \mathbb{R}^1 GL(2, \mathbb{R}) へ変換する写像を考えてみましょう。

 \varphi : \mathbb{R}^1 → GL(2, \mathbb{R}) \ ,\ t \mapsto \begin{pmatrix} 1 & t \\ 0 & 1 \end{pmatrix}

この写像は明らかに連続ですし、 GL(2, \mathbb{R}) の閉部分群として上の行列の形になるもの(  H と名付けておきます)を取ってきたときは、全単射で逆写像も連続になります。つまり、 \mathbb{R}^1 H は位相同型( \varphi同相写像)になっていると言えます。実数は加法(+)を「積」として考えた場合に群の性質を満たすので、加法群と呼ばれています。そしてその表現である  H が(実数の相対位相をもつ)線形リー群となっていますね。


局所同型とリー群

前節の一番最後で、位相群の実数  \mathbb{R}^1 の表現として線形リー群を考えました。そうすると、  \mathbb{R}^1 も何か「リー群」らしい要素がある気がしてきます(そうはいっても、まだ「リー群」を定義していないので分からないかもしれないですが)。しかし、実数  \mathbb{R}^1 は開かつ閉という激ヤバな位相空間であり、無限の大きさを持つややこしいものでした。扱い方がいまいち分かりづらいと言えます。



ただ、加法群であるという性質を活かすことが出来そうです。0 の  \varepsilon-近傍、例えば  (-1, 1) を考えてみると

 x + a \in \mathbb{R} (a \in \mathbb{R}^1, x \in (-1, 1))

は、点  a 周りの  \varepsilon-近傍になっていることが分かります。つまり、群の大きさは無限大だとしても、群の作用(実数なら「和」)によって近傍の構造はきれいに移される(位相同型写像になっている)ようになっています。ということは、少なくとも単位元(実数なら 0 )の近傍さえ分かっていれば、群全体を見なくたって(群を使って)全体の構造についても把握することが出来そうです。そして、単位元の近傍の様子が線形リー群の単位元付近の近傍と「位相同型」な雰囲気があれば、全体も位相同型だと考えられそうです。


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今の考えに用語を当てておきます。

2つの位相群  G, H単位元近傍  U, V を適当に取る。この時  \phi : U → V の位相同型写像が存在し、

 xy \in U \Rightarrow \phi(xy) = \phi(x)\phi(y) \in V

が成り立つとき、  G H は局所同型であるという。


つまり、 G H単位元近傍が位相群として大体一緒になっているといった感じです。この局所同型を使って、とりあえずリー群を定義することになります。ただ、リー群は単に線形リー群とその局所同型で出来るわけではなくて、少しだけ変えて定義することになります。

リー群の定義 Ver.1.0

 G GL(n, \mathbb{C}) の部分群とし、 V G単位元の適当な近傍とする。このとき

 V GL(n, \mathbb{C})閉集合

かつ

 G の連結成分が高々可算個のみ

という条件を満たすとき、 G GL(n, \mathbb{C})部分リー群とする。


適当な  n GL(n, \mathbb{C}) の部分リー群と局所同型になる(かつ連結成分が高々可算個の)位相群リー群Lie群)と呼ぶ。


連結成分が可算個というのは不思議な感じがします。可算というのは、無限個あっても構わないけど(実数のように)数え方すら途方もないほどあるわけではないくらいという感じです。そうは言っても、実はリー群の代表例が線形リー群であり、また線形リー群は連結(単連結とは限らない)なので、大体の場合は気にしなくてよさそうです。ほとんどの場合、リー群=線形リー群とその局所同型な位相群たち という認識でよさそうです。



 \mathbb{R}^1 、もっと広く  \mathbb{R}^n はリー群になります。また先ほど出てきたスピン群も、スピノルというもので表されるリー群です。リー群についてはこれからさらに細かく見ていくことになりますが、リー群には今の定義以外にも様々な表現の定義が存在することが分かります。それらの定義の間にはどのようなつながりがあるのかについてを考えていくことになります。



今回は主に、代表的な線形リー群とリー群の位相群的アプローチをしました。次回は、多様体的アプローチについてやります。
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参考文献

『リー群と表現論』

リー群と表現論

リー群と表現論

『連続群論の基礎(基礎数学シリーズ)』

連続群論の基礎 (基礎数学シリーズ)

連続群論の基礎 (基礎数学シリーズ)