ゆるふわリー群論入門(5)連結・普遍被覆群 ~ Broaden His Horizons~

この記事は、リー群と表現のざっくりふんわりとした解説記事の5本目です。

前回:リー環と1パラメータ部分群
cake-by-the-river.hatenablog.jp



今回は、局所構造であるリー環を大域的な部分まで拡げることを考えてみます。「視野を広げる」的な(ふざけたタイトル)。多様体でのリー群の定義・連結性とコンパクトリー群・普遍被覆群と  SO(3) などについてやります。なので、長くて内容が濃いものになりました。

 

リー群の定義2

局所座標

前回は1次元のリー環とその指数関数によって作られた1パラメータ部分群を考えました。その1パラメータ部分群は、より高次のリー環(接ベクトル)に対しても考えられそうです。線形独立なリー環を組み合わせて行けば、2次元・3次元とどんどん高次なリー群を考えることも出来そうです。つまり

 X = X_1 + X_2 + \dots + X_m

と接ベクトルをm個の基底ごとに分解したとき、1パラメータ部分群を拡張するようにしてリー群を作れそうだと言えます。



例えば、リー環  X の基底  \{X_1, X_2, \dots, X_m\} を用いて


 X = (t_1, t_2, \dots, t_m) \mapsto e^{t_1X_1 + t_2X_2+ \dots +t_mX_m}


としてみましょう。もともと考えていたリー群がm次元だとすると、m個の基底による指数関数で表されたこの部分リー群も、もとのリー群と同次元になります。そうなると、1パラメータ部分群のみでリー群全体を表現できるかどうかは未だに分かりませんが、少なくとも単位元の微小な近傍くらいは表すことが出来ている気がします。1次近似である接空間がその近傍と”似ている”ということです。実際、単位元近傍の各点を上記のように  \exp のみで表現しきれることが示されます(局所同型)。



リー環の指数関数でこのように単位元周りが表現できることは、多様体における(単位元の)局所座標に相当します。つまり、リー環の基底  \{X_1, X_2, \dots, X_m\} を地図帳の(単位元の)ページ内の  \mathbb{R}^m の基底と同じものとし、多様体上への地図の対応(局所座標系  \varphi)を指数関数と考えられます。どちらかと言えば、一番最初にこの接空間としてのリー環の扱いから多様体を考え始めましたけども。



上の指数関数によって表された単位元の局所座標を第1種標準座標と呼びます。第2種にあたるのは次のタイプです。

 e^{t_1X_1}e^{t_2X_2} \dots e^{t_mX_m}

第1種と第2種とは前回の Campbell-Hausdorff の公式で行き来が出来ます。逆にこの公式には収束の問題が絡んでくるため、局所的な範囲でしか第1種と第2種とは行き来できないかもしれないとも言えます( X, Y がもし可換なら  [X, Y] = 0 より必ず収束しますが)。また、リー群の等質性を考えると、リー群上の各点  x の近傍での局所座標も

 xe^{t_1X_1 + t_2X_2 + \dots + t_mX_M}

と表せます。



ここまでの話は  GL(n, \mathbb{C}) かその部分リー群(つまり行列で表すリー群)に限ったもので、行列でない場合はあまり考えていなかったですが、実は一般のリー群に対しても”指数写像 \exp を行列の場合に近い形で定義すれば、局所座標を考えることが出来ます。つまり、リー群上のどの点でも局所座標を定義可能で、リー群がちゃんと多様体になっていることが分かります。むしろ、多様体という意味でリー群を定義することも出来ます。


リー群の定義 Ver.2.0

多様体  G位相群であって、群演算


 x, y \mapsto xy , x \mapsto x^{-1}


 C^\omega級となる  Gリー群と呼ぶ。


簡潔で分かりやすい定義ですね。「解析的多様体位相群」とまとめることもできます。


2つ前の「 GL(n, \mathbb{C}) の部分リー群とその局所同型」による定義Ver.1.0 とこの定義Ver.2.0 は同じものになります。Ver.1.0 → Ver.2.0 は "von Neumann-Cartan定理" と呼ばれています(Ver.2.0 → Ver.1.0 の名前は知らないです)。どちらの定理の証明もちゃんと追えてはいないですが、ざっくりと次のようになっているみたいです。


Ver.1.0 → Ver.2.0 について

 GL(n, \mathbb{C}) との局所同型の近傍を元に、上記のように  \exp \log を考え、(群の作用で単位元から移された)各点での局所座標とその  C^\omega微分同相の関係を導く。


Ver.2.0 → Ver.1.0 について

リー群の局所同型とリー環の同型が(テイラー展開を使えば)同値関係になるという定理と、どんな(実有限次元)リー環もリー群が対応するという定理(Lieの第三定理)とから、多様体でのどんなリー群も(リー環が同型という意味で) GL(n, \mathbb{C}) の部分リー群に局所同型なものとなるから。


といった感じです。いずれにせよ、リー群を多様体的に考えることも(線形リー群に類似した)位相”群”として考えられることも分かります。


リー群の構成

リー環からリー群

リー群の接空間としてリー環を導入してきました。その一方で、リー環だけからリー群全体の大域的な構造は決定できるのか、という問題も考えられます。



単位元の微小な近傍( W とします)はリー環の指数関数(の積)で表し尽くせますし、 W がずいぶん小さければ連結としてよさそうです。また、  W 内の点は位相群の元であり、それらの積をいくらか重ねていけば、いずれ  W の外側の元までたどり着くことが出来そうです。



 W のある外側の元  x W 内の元の積だけで表せたとしましょう。また、  x による  W の近傍の軌道  xW W と被った範囲を持つとします。このとき、  xW W の連結性をそのまま移してきているはずで、  W + xW もやはり連結となります。さらに、( \exp の積で尽くされた)  W 内の元の組み合わせからなる  xW は、やっぱり  \exp の積で表し尽くせます。つまり、単位元の近傍  W の性質を(連結な)外部へとそのまま拡張していくことが出来ます。このような操作は解析接続と呼ばれています。


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この拡張は  W と連結な部分群の全体まで行えそうですが、その全体とは結局、単位元での連結成分(極大な連結部分集合) G^o のことになります。もっとも、リー環の指数写像が辿り着ける範囲、つまり  \exp の像の積で表せる範囲は、単位元の連結成分  G^o に限られるとも言えます。なぜなら、  G^o でないリー群の点に行くためには連続的でない操作によって「ジャンプ」する必要があるからです。例えば


 GL(n, \mathbb{R}) = \{ x \in M_n(\mathbb{R})\ |\ det(x) \neq 0\}


は、 det(x) > 0 の連結成分  G^+ det(x) < 0 の連結成分とに分かれていますが、行列の指数関数では


 det(e^X) = e^{tr(X)} \ \ \ \dots ☆


という式が成り立つことが分かっており、その右辺を見ると  \exp行列式が必ず正になることが分かります。そのため、 G^+ \exp の積で表し尽くせても、  det(x) < 0 の部分は  \exp で表すことは不可能だと言えます。



リー群  Gリー環 \mathfrak{g} として、 \mathfrak{g} の任意の部分リー環  \mathfrak{h} が必ず(接空間としての)リー環になる連結リー群  H が存在します。このような連結リー群は解析的部分群と呼ばれるようです。


指数関数単体なら?

指数関数の積によって連結リー群の元は表現できることが分かりました。


 \exp(X)\exp(Y)\dots


もしCampbell-Hausdorff の公式が使えるならば、これらの積を一つの  \exp にまとめることが出来ます。そんな風に1つの  \exp で表しきれる(=指数関数が全射な)リー群の条件も考えてみましょう。



連結なリー群ならなんでもOK、という訳でもなさそうです。  SL(2, \mathbb{C}) について考えてみましょう。


 \displaystyle T = \begin{pmatrix} -1 & 1 \\ 0 & -1 \end{pmatrix}


は確かに  det(T) = 1 を満たしており、  SL(2, \mathbb{C}) の元です。さらに、この行列は対角化不可能という性質を持ちます。



一方  SL(2, \mathbb{C})リー環は(☆式から)

 \mathfrak{sl}(2, \mathbb{C}) = \{X \in \mathfrak{gl} (2, \mathbb{C}) \ | \  tr(X) = 0 \}

であり、\mathfrak{sl}(2, \mathbb{C}) の元  X は三角化することで次の形になります。


 \displaystyle P^{-1}XP = \begin{pmatrix} a & b \\ 0 & -a \end{pmatrix}


このとき、もし  a \neq 0 ならばこの上三角行列が対角化可能になることは(対角化の操作的に)分かります。さらに、対角化  U^{-1} X U において


 \exp(U^{-1}XU) = U^{-1}\exp(X)U


という式が(  \exp がべき乗から表されるので)成り立ちます。この式の右から左への操作により、  a \neq 0 を満たすリー環 \exp は必ず対角化可能になります。よって  T はこのタイプには当てはまりません。また、もし  a = 0 だとしてもその指数関数は

 \displaystyle \begin{pmatrix} 1 & b \\ 0 & 1 \end{pmatrix}

の形で表され、  T の形にはなり得ません。結局、  T \exp(\mathfrak{sl}(2, \mathbb{C}))の像には含まれないということです。 \mathfrak{sl}(2, \mathbb{C}) の指数関数は全射でないことが分かります。一方、

 \displaystyle T = \exp(\begin{pmatrix} i\pi & 0 \\ 0 & i\pi \end{pmatrix}) \exp(\begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 0 & 0 \end{pmatrix})

と2つの  \exp の積によって表すことは可能です。



指数関数が全射になるかどうかはケースバイケースだそうですが、以下の3つの場合は少なくとも全射になると言えるようです。

  • 連結かつコンパクトなリー群
  • 連結かつ冪零なリー群
  •  GL(n, \mathbb{C})

冪零はざっくり言うと、Campbell-Hausdorff の公式で出てくる交換子積が、途中から0になるようなリー群です。交換子積が 0 になる次数で公式がストップして収束し、指数関数が全射になるみたいです。一方の連結コンパクトについては、とりあえず次のように考えられそうです。


連結コンパクトリー群

コンパクトなリー群における1パラメータ部分群  \exp(tX) を考えます。大元のリー群がコンパクトなので、その閉部分集合である  \exp(tX) もコンパクトになります。さらにその連続なパラメータ  t \in \mathbb{R} も、コンパクトな閉区間  a \le t \le b で表されると言えます。これは一般に最大値・最小値の定理と呼ばれ、コンパクト空間(今回は  \exp(tX) )からの連続関数には必ず最大値・最小値が存在すると言えます。


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パラメータが有限なら、その端でいきなり曲線が切れるのでしょうか?それはそれでおかしいですよね。1パラメータ部分群がパラメータ(目盛)に関して加法群(足し算が群)になっていることを考えると、いくらでも長くなるのが普通で、途切れているとは考えにくいです。



ただ、曲線が巡り廻って最初の点に戻り、再びそこから廻り始める、惑星の軌道のようになる場合は大丈夫そうです。  t = 0単位元からスタートし、単位元 t = t' の間隔で戻るというのを繰り返すパターンです。



2次元リー環で、2方向への1パラメータ部分群がこのように1周して戻ってくるものとしては、ドーナッツの形があります。このドーナッツは数学的にはトーラスと呼ばれていて、もしリー環  \mathfrak{g} が可換(交換子積が0)ならば、2方向の曲線の積が1つの指数関数にまとまるため、  \exp(\mathfrak{g}) はトーラスになります。


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全ての連結コンパクトリー群の元は、実はこの「トーラス」の共役類に分類されます。しかもその共役を取る操作も指数関数一つで表せるので、連結コンパクトリー群は指数関数の全射になるようです。詳しいことは後々やると思います。


普遍被覆群

今度は、指数関数が単射になる条件を考えてみたいと思います。単射ということは、パラメータの各点がリー群上の異なる点に移されているはずです。もしトーラスのように周回するパターンならば、パラメータの点が一定間隔で同じ点を指定してしまうので、単射ではないと分かります。そのため1パラメータ部分群が単射になるのはおそらく、一つの曲線に相当するときだと考えられます(直線  \mathbb{R} と局所同型ともいえる)。



ところで、螺旋状に無限にくるくる回る曲線は、そのくるくるを引っ張って伸ばすことで  \mathbb{R} に変形が可能です。これは別に螺旋状に限らなくても良くて、池の回りを無限に歩き回ったときの距離を、向きに符号をつければ関数として  \mathbb{R} に対応させるられます。このように、円周と直線とが(繰り返しによって)対応していることが言えます。


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もっと群論的に言えば、(加法群としての)実数  \mathbb{R} を円周  S^1 の剰余類で分類(商を取る)することで、整数の群  \mathbb{Z} が得られることに相当しています。整数で商を取るのも同様です。

 \mathbb{R} / S^1 \cong \mathbb{Z}
 \mathbb{R} / \mathbb{Z} \cong S^1



これを今度は位相空間的に考えることも可能です。ある点を出発してその点に帰ってくるループを考える時、もし穴が開いている空間ならば、「穴を周回した」ループと「穴を周回しなかった」ループとに分けられます。分類とは何かしらの同値関係をもとに振り分けることでしたが、今回の同値関係は「ループ同士が連続した変形で一致できるか」となり、この同値関係はホモトープと呼ばれています。



位相群の単連結の話はこれと関係していて、穴の存在はホモトープによる分類に帰着します。統一するために、ループの始点(かつ終点)は単位元に固定しましょう。単連結な位相空間では、全てのループが(スムーズに変形可能なので)ホモトープな関係にあることが分かります。単位元から動かないループを考えることも出来て、この「動かないループ」とホモトープな関係にあるときを零ホモトープと呼ぶことにすると、単連結ではすべてのループが零ホモトープだと言えます。


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一方、1つ穴が開いた場合はその穴を周回するループが零ホモトープではなくなります。しかも、その穴を何周するかという点でもホモトープかどうかが変わり、例えば1周したループと2周したループとの間を連続的に変化させることは出来ません。ということは、正確には「何周したか」という分類が出来ることになります。



この「何周したか」という性質が、先ほどの群論の観点に繋がります。ループの合成(積)を考えるのです。例えば、2周するループに追加で1周するループを加えたものは、3周するループとホモトープになります。なので、「何周したか」という部分を加法群だと捉えることが出来そうです。



実際、単位元には零ホモトープ(動かないループ)を、逆元には反対向きの回り方を充てることで、加法群にすることが出来ます。反対向きと言うのは、逆向きの回り方のループを対応させるという意味で、これらの組み合わせが零ホモトープになることも図からわかります。


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このような、「何周したか」という性質に付随した群のことを、基本群と呼びます。もし穴が2つあれば、「穴1を2周したのち、穴2を1周し、さらに穴1を…」と群が無限に生成されていくのが分かると思います。さらにこの時、この基本群全体をカバーできるようなループ(ルート)の集合を普遍被覆群と呼びます。穴1つの場合は無限に周回し続けるループに対応し、それは最初に述べた  \mathbb{R} になります。

 \mathbb{R} / \mathbb{Z} \cong S^1

では、  \mathbb{R} が普遍被覆群、  \mathbb{Z} が基本群ということになります。



直線  \mathbb{R} 上のループは全て零ホモトープになっています。 +\infty まで行けば  -\infty から出てくるというわけでもないので、 \mathbb{R} は単連結になっています。一般に、普遍被覆群は単連結になっています。むしろ普通は、このように単連結であるリー群のことを普遍被覆群の定義にしています。



指数関数が単射になる条件として考えはじめた単連結でしたが、実際には次のような関係が成り立っています。

定理

任意のリー環に対して、(普遍被覆群として)連結で単連結なリー群が一意に定まる。


また、その単連結リー群を適当な離散群(基本群)によって割る(商を取る)ことで得られる連結リー群も、同じリー環を持つ。

確かに円周  S^1 と 実数軸  \mathbb{R} は同じリー代数  \mathbb{R} を持っています。またその他の例として、  SO(3) SU(2),  Spin(3) があります。


 SO(3) の普遍被覆群

 SO(3) は3次元空間における回転操作全般を表現できるリー群だと言えます。 直交行列を構成する列ベクトルのノルムは1なので、基底ベクトルに作用させてもその長さを変えない変換になります。また、各列ベクトルを辺とする立体がありますが、(ヤコビアンのように)行列式とはその立体の符号付き体積を意味しています。O(n) のうち  det = -1 となる行列は図形全体の鏡映操作にも対応していますが、  det = 1回転群  SO(3) は(鏡映を含まず)回転のみを表す行列だと言えます。



1回転して戻ってくる動きが零ホモトープではないように、  SO(3) は単連結になっていません。ということは、 SO(3)リー環が一緒になるような普遍被覆群が存在しており、それを何かしらの基本群で割った群として  SO(3) が存在しているはずになります。この時の普遍被覆群はスピン群  Spin(3) と呼ばれています。



この普遍被覆群を考えるには、3次元回転を表す別の方法を考えてみるのがよさそうです。オイラーの回転定理という定理によれば、いかなる回転もその回転軸と回転角を指定すれば一意に定まります(直感的にも正しそうです)。唐突に思うかもしれないですが、それらの軸と角度を指定するために、原点中心で半径が  \pi の球を考えてみましょう。


例えば、原点を通ってある3次元ベクトル  v の方向を向いた直線を考えると、球の中では  [-\pi, pi]区間の線分が対応していますね。その線分上の1点を、  v の方向が回転軸で区間  [-pi, pi] が(反時計回りの)回転角を表す「1つの回転」と捉えてみることで、この球内の点一つひとつが  SO(3) の各元に対応します。


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飛躍して聞こえるかもしれないですが、これをさらに「4次元空間での球面」に落とし込むことも可能です。4次元空間内の単位球面は3次元球面  S^3と呼ばれます(3次元空間での球面が2次元なのと同じ理由でしょう)。 S^3 は普段の(単位)球面と同様にして、次の式で表せます。


 x^2 + y^2 + z^2 + w^2 = 1


このとき  w^2 を右辺に移してみると、1つの  w \in [-1, 1] に対して、半径  1 - w^2 の球面  S^2 が対応していることが分かります。 w を動かしてみれば、球面の集合が半径1の球になることも分かります。


 x^2 + y^2 + z^2 = 1 - w^2


この球は、先ほどの半径  \pi の球と同一視することが可能です。角度を  [-\pi, \pi\]] の範囲で表す代わりに、  [-1, 1] の範囲で表したとしても表記が変わるだけで問題がないからです。よって3次元球面  S^3 SO(3) の全ての元が表せます。



気づいた人も多いかもしれないですが、この3次元球面  S^3 SO(3) の元と1対1対応にはなっていないです。実際、 w = a w = -a a \in [0, 1])の場合に指定される(普段の)球面は

 x^2 + y^2 + z^2 = 1 - a^2

と全く同じものになります。これは「軸での回転」をベクトルで表現しようとしたために起きる現象です。つまり、ベクトル  v の方向を正とする軸における角度  a の回転は、逆方向のベクトル  -v を正とする軸での角度  -a の回転と、全く同じものを表しているからです。例えば、同じx軸回りの回転で、x軸の正の方向を基準に反時計回りに 90 度回転する操作と、x軸の負の方向を基準に反時計回りに 270 度回転する操作は、確かに同じになっています。



そのため、回転を表すには逆方向も同じとみなす、つまり3次元球面での「対蹠点」(「地球の裏側」のように、点  Xに対して原点対称な反対側の点  -X )を同一のものとみなす必要があることになります。これを群論的に示すと、3次元球面  S^3 を 群 Z_2 = \{1, -1\} で割った群が  SO(3) に対応する、となります。結局、  S^3 SO(3) の普遍被覆群 =  Spin(3) だったわけです。


 S^3 / Z_2 \cong SO(3)



実は、もっと高次元の球面  S^n に対しても、同じような関係が成り立つことが分かっています。

 S^n / Z_2 \cong RP^n (n \ge 2)

この  RP^n実射影空間と呼ばれる多様体です。実射影空間  RP^n とはざっくり言うと、「  \mathbb{R}^{n+1} 空間の原点を通る直線全体」です。あるいは「連比の全体」とも言えます。いずれにせよ分かりにくい多様体ではあります。



 SO(3) での考え方は、この実射影空間での2次元の場合で考えられます。つまり、  RP^2 は3次元空間の原点を通る直線であり、球面  S^2 上の点2つと交わります。一つの直線に対して球面上の2点が  x, -x のように対応していることから、 RP^2 の普遍被覆群が  S^2 で、  Z_2 が基本群だということは分かりやすいです。



同じようにして、 SO(3) が(同じ普遍被覆群を持つ)  RP^3 と同型であることも言えます。1つの回転は4次元空間の原点を通る直線と1対1対応である、ということです。ついでに、3次元球面の回転も表せるという性質が、実は四元数(Quaternion, 虚数単位を3つ持つ数)を用いた図形の回転操作と深く関わることも分かりますね。四元数は3DCGだとお馴染みのやつで、行列を使うより計算が速くて重宝されるみたいです。



最後に、3次元球面  S^3 SU(2) と同型であることも示します。これは  SU(2) の元を考えてみればわかります。行列式の条件とユニタリ性を満たすためには各元が


 \displaystyle \begin{pmatrix} a + bi & -c + di \\ c + di & a - bi \end{pmatrix}


という形で表され、またこれら4つの変数の間に

 a^2 + b^2 + c^2 + d^2 = 1

という条件が必要十分です。これが3次元球面と1対1対応していることは明らかですね。



つまり、 SO(3) の普遍被覆群  Spin(3) S^3 \cong SU(2) であり、その基本群は  Z_2 = \{1, -1\} ということになります。

 SO(3) \cong RP^3

 Spin(3) \cong S^3 \cong SU(2)

 SU(2) / Z_2 \cong SO(3)


指数関数の全単射

指数関数の単射に必要な条件として単連結性があることは分かりましたが、実際の必要十分条件は結局何なのでしょうか?実は、指数関数が単射な時は全射性も成り立っている、つまり指数関数が全単射になるようです(あまり詳しくは知らないですが)。そして、その同値な条件として以下が挙げられるようです。


 \mathfrak{e} とは3次元リー環で、その基底  (H, X, Y)

 [H, X] = Y, [H, Y] = -X, [X, Y] = 0

となるものだそうです。(まだ勉強が進んでないので)ルートについてはよく分かっていませんが、とりあえず挙げておきました。とりあえず、単連結という要素が重要だとは思います。



今回は、指数関数の適用範囲を基点にリー群の定義Ver.2.0 やトーラス、普遍被覆群などを扱いました。内容が濃くて大変でした(書くのも)。次回は随伴表現についてやります。

cake-by-the-river.hatenablog.jp


P.S.
明日 3/10 は東大の合格発表ですね。去年の今頃死ぬほど緊張していたことを思うと、今はとてものんびりしていられるのが面白いです。

参考文献

『リー群の話』

『リー群と表現論』

リー群と表現論

リー群と表現論

多様体の基礎』

多様体の基礎 (基礎数学)

多様体の基礎 (基礎数学)

『連続群論の基礎(基礎数学シリーズ)』

連続群論の基礎 (基礎数学シリーズ)

連続群論の基礎 (基礎数学シリーズ)

Hall, Brian C. An Elementary Introduction to Groups and Representations
arXiv : [math-ph/0005032] An Elementary Introduction to Groups and Representations

math.stackexchange.com

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