ゆるふわリー群論入門(6)随伴表現

この記事は、リー群と表現のざっくりふんわりとした解説記事の6本目です。

前回:Broaden His Horizons
cake-by-the-river.hatenablog.jp



今回は、構造定数と随伴表現を考えて行きます。

 

リー環の構造①

構造定数

一般的な群において、限られた群の元さえあれば、その積を組み合わせていくことで群全体を構成することが出来ることがありました。例えば  C_{3v} という群では、  C_3, \sigma_1 の2つの元さえあれば全ての元をこの2つの組み合わせで表せます。このような群の構成に必要な最小の元の組を生成子と呼びます。



これと同じようなことをリー群・リー環においても考えてみます。その例として回転群  SO(3) を考えることにしましょう。



直感として、どのような回転も、 "x軸回りの回転"、"y軸回りの回転"、"z軸回りの回転"の組み合わせを駆使して表現できそうです(これは実際に正しく、オイラー角と呼ばれる)。ということは、回転群における生成子としてこれら3つの回転を駆使すれば出来そうです。特に、微小な回転角の積み重ねで大きな回転角も表せるので、「3方向の無限小回転」が生成子になりそうです。


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そこでまずは、z軸回りの回転を表す行列のリー環を探ってみます。



 \displaystyle R_z(t) = \begin{pmatrix} \cos(t) & -\sin(t) & 0 \\ \sin(t) & \cos(t) & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}

 \displaystyle \begin{eqnarray} \frac{\mathrm{d} R_z}{\mathrm{dt}} &=& \begin{pmatrix} -\sin(t) & -\cos(t) & 0 \\ \cos(t) & -\sin(t) & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \\ &=& \begin{pmatrix} 0 & -1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \cos(t) & -\sin(t) & 0 \\ \sin(t) & \cos(t) & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \\ &=& \begin{pmatrix} 0 & -1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} R_z(t)\end{eqnarray}


リー群は指数関数からなるため、パラメータによる微分を使ってリー環を出してみました。その他も合わせてみると、次の3つの行列が出てきます。

 \displaystyle A_1 = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -1 \\ 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}

 \displaystyle A_2 = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \end{pmatrix}

 \displaystyle A_3 = \begin{pmatrix} 0 & -1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}

そして、これらの線形結合で  \mathfrak{so}(3) は生成されます。実際、

 \mathfrak{so}(n) = \{X \in \mathfrak{gl}(n, \mathbb{R}) |\ ^t X = -X \}

 \because \ ^t X = -X \Leftrightarrow \ ^t(e^{sX})(e^{sX}) = e^{s (\ ^tX + X)} = e^{s (-X + X)} = 1_n

であり、 \mathfrak{so}(3) の任意の元は

 \displaystyle \begin{pmatrix} 0 & a & b \\ -a & 0 & c \\ -b & -c & 0 \end{pmatrix}

と表されますが、これが上記の3つの線形結合ということは一目で分かります。群の時と同様に考えることで、先ほどの3つの行列が  \mathfrak{so}(3) の生成子だと言えるでしょう。リー環線形空間なので(後述)、生成子はリー環における基底でもあります。



生成子は採り方によって見た目が変わってしまいますが、生成子同士の関係はどの見た目でも同じになるはずです。この関係さえ考えれば、リー環のどの元もそれらの関係を駆使して導き出すことが出来そうです。つまり、生成子同士の交換子積の情報さえあればリー環の構造は同定できそうです。このとき、生成子同士の交換子積もリー環の元なので、生成子の線形結合によって表されます。ということは、生成子  X_i の交換子積は一般に次のように書けるはずです。


 \displaystyle [X_i, X_j] = \sum_{k} f_{ijk} X_k


例えば  \mathfrak{so}(3) [A_1, A_2] を考えると、

 [A_1, A_2] = A_3 \ \ \dots (a)

より、  f_{121} = f_{122} = 0, f_{123} = 1 となります。このような  f_{ijk}構造定数と呼ばれ、リー環の構造の情報を持つと言えます。また、先述のようにこれらの生成子はリー群の生成子にもなります(連結な場合)。



量子力学では「角運動量の代数」と言う名前で回転群の生成子の関係を扱いますが、その時も上の式  (a) と同様の式を基本にします。その時の式は交換関係と呼ばれたりします。また量子力学の文脈では、構造定数の前に虚数単位  i が出ることもあります。いずれにせよ、交換関係あるいは構造定数を用いることで、座標系に依らない数式の扱いが出来るようになります。

量子力学の交換関係: [\hat{J_i}, \hat{J_j}] = i \varepsilon_{ijk} \hat{J_k}


微分と随伴表現

日本語の「微分」という言葉は結構厄介で、微分操作も微分係数も全微分も何でも「微分」と呼んだりします。英語には differential と derivative の2語があり、differential が微分(操作)を指し derivative が導関数を指すようです。ただそれも、写像の話になると結構ごちゃまぜになっているようです。ここではさらに、もう一つの "微分" derivation という用語も考えていくので、英語も表記して区別を図りたいと思います。



多様体の接空間同士の線形写像(リー群ならリー環同士)はヤコビ行列で表現され、 "微分" differential と呼ばれました。一方、接ベクトルは偏微分作用素 \displaystyle \frac{\partial}{\partial x_i} の組み合わせによってできる方向微分(接ベクトルの方向で関数を微分した時の微分係数)から成っています。そして、この接ベクトルの持つような "微分" derivative の性質を、さらに抽象化したものが "微分" derivation です。



"微分" derivation は、環の上での写像になります。そもそも(リー"環"の)環とは、群が「積に閉じている」という抽象的な性質のみから定義されるのと同じで、「和と積で閉じている」という性質を持つ数学的な構造の事を指します。ちなみにリー"代数"の代数とは、環の中でもさらに "和" → 線形空間、 "積" → 分配法則も成立 としてバージョンアップしたもののようです。このときの "積" は、リー環において交換子積に相当します。



さて、"微分" derivation とは以下のような線形写像の事を指します。

 A の上の線形写像  D: A \to A が次の性質(ライプニッツ則)を満たすとき、 A微分 derivation と呼ぶ。


 D(xy) = D(x)\ y + x\ D(y)


そこまで難しいことではなく、ライプニッツ則=積の微分法則を満たすような写像を"微分" derivation と呼ぶことにしたわけです。導関数の自然な拡張と言えます。そしてこの"微分" derivation 自身も次の計算から環になっていることが分かります。

 (D + D')(x) = D(x) + D'(x)

 [D, D'](xy) = [D, D'](x)\ y + x\ [D, D'](y)

ここでの交換子積  [D, D'] は、写像としての合成を用いたもの、つまり

 [D, D'](x) = (D \circ D')(x) - (D' \circ D)(x)

と言う意味です。"微分" derivation  D の単なる合成のみでは微分にならないですが、交換子積を使えば微分となり、積も導入できるということです。環  A の"微分"derivation 全体の集合を  Der(A) とし、微分環と呼ぶことにします。



この"微分" derivation を使って、「随伴表現」というものを考えたいと思います。



そもそも表現とは、(群論の時にやったように)行列などでその数学的構造を表すことでした。表現自体は何次元でも構わないですが、表現によって群や環の積や線形性をどれだけ保存するかが重要で、そのような写像準同型写像と呼ぶのでした。



リー環  \mathfrak{g} の線形性と交換子積の構造を保存する表現を考えるときに、それ自身も環になるという”微分” derivation が使えそうです。微分かつ表現であるような写像 \psi_x : y \mapsto \psi_x(y) とおくと、その条件は


 \psi_x ([y, z]) = [\psi_x (y), z] + [y, \psi_x (z)]

 \psi_{[x_1, x_2]}(y) = [\psi_{x_1} (y), \psi_{x_2} (y) ]


となります。ここでの  x x_1, x_2写像  \psi に付随したパラメータの意味で、  y, z写像が作用する独立変数の意味です。1行目は独立変数の(交換子)積に対してライプニッツ則を満たすということ、2行目は写像同士の(交換子)積の構造を保つということです。



そんなものあるのか?って思ったかもしれないですが、実は「交換子積を取る」という動作自体に隠されているようです(灯台下暗し?)。次のような写像を考えます。

 \mathrm{ad}_x : y \mapsto [x, y]


この写像  \mathrm{ad}_x x から作り出す写像  \mathrm{ad} : x \mapsto \mathrm{ad}_x は、リー環随伴表現と呼ばれます。そして実は、リー環の随伴表現はリー環微分表現であることが言えます。


 \mathrm{ad}_x ([y, z]) = [x, [y, z]]

 [x, [y, z]] = -[[y, z], x] = [[x, y], z] + [[z, x], y] = [[x, y], z] + [y, [x, z]]

 \therefore \mathrm{ad}_x ([y, z]) = [\mathrm{ad}_x (y), z] + [y, \mathrm{ad}_x (z)]


2行目は交換子積の反対称性とヤコビ恒等式により成り立ちます。よって微分であることが言えました。

 \mathrm{ad}_{[x_1, x_2]} (y) = [[x_1, x_2] , y]

 [[x_1, x_2] , y] = [x_1, [x_2, y]] - [x_2, [x_1, y]] = \mathrm{ad}_{x_1} ([x_2, y]) - \mathrm{ad}_{x_2} ([x_1, y])

 \therefore \mathrm{ad}_{[x_1, x_2]} (y) = [\mathrm{ad}_{x_1}, \mathrm{ad}_{x_2}] (y)

2行目もヤコビ恒等式によって成り立つことが分かります。そのため表現であることも言えました。



リー環は、行列とは限らないベクトル空間であることもありますが、その表現である随伴表現は「線形写像」で表されるため、結局リー環を考える際には行列(しかも  \mathfrak{gl}(n, \mathbb{R})の一部)で考えてよさそうです。実際、構造定数を用いると

 (\mathrm{ad}_{X_i})_{jk} = -f_{ijk}

と表せます。



また、交換子積が0になるような関係(可換という)

 \mathrm{ad}_X (Y) = [X, Y] = 0

については情報がつぶれてしまうものの、それ以外の情報は忠実に表現してくれるため、リー環の随伴表現は「非可換性」を示すものとして考えることが出来ます。



さて、リー環の表現があるならば、リー群の表現というものもありそうな気がしてきます。実際にリー群の随伴表現もありますし、リー環の随伴表現と「如何にも」な関係でつながっています。まずは天下り的にリー群の随伴表現を定義します。

リー群  G の元を  g, h Gリー環 \mathfrak{g} とする。


 h の"共役"  ghg^{-1} を取る写像


 \phi_g: G \to G, h \mapsto ghg^{-1}


を考える( \phi_g は内部自己同型写像という)。この写像  \phi_g単位元における "微分" differential を


 \mathrm{Ad}_g := (d\phi_g)_e : T_e(G) \to T_e(G)


とおく。このとき


 \mathrm{Ad}: g \mapsto \mathrm{Ad}_g


 G を線形写像  \mathrm{Ad}_g に変える写像であり、リー群の随伴表現と呼ぶ。


リー群の随伴表現について、それがリー群の表現である、つまり

 \mathrm{Ad}_{gg'} = \mathrm{Ad}_g \mathrm{Ad}_{g'}

を言うためには

 g e^{tX} g^{-1} = e^{t \mathrm{Ad}_g(X)}

が言えれば良さそうです(右辺から左辺への変形を  \mathrm{Ad}_{gg'}(X) で考えて)。この式はつまり、リー群間の写像における単位元での "微分" differential において、その指数写像が元の写像に戻るということを意味します。(証明はゆるふわなのでやらないですが)この命題は成り立ちますので、随伴表現はちゃんと表現になっているようです。



リー群の随伴表現とリー環の随伴表現とも、同じように指数写像・"微分" differential によって結びついています。

 (d \mathrm{Ad})_e = \mathrm{ad}


 e^{\mathrm{ad}_X} = \mathrm{Ad}_{e^X}


第2式は微分と指数関数の関係を考えれば第1式から導けるので、第1式を考えます。


 g e^{tX} g^{-1} = e^{t \mathrm{Ad}_g (X)}

より、

 e^{sX} e^{tY} e^{-sX} = e^{t \mathrm{Ad}_{(e^{sX})} (Y)}

となります。


 s, t が十分小さく単位元付近と考えれば

 \mathrm{Ad}_{(e^{sX})} (Y) = e^{sX} Y e^{-sX}

が成り立つので

 \displaystyle \begin{eqnarray} (d \mathrm{Ad}_X)_e (Y) &=& \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{ds}} \mathrm{Ad}_{(e^{sX})} (Y) |_{s=0} \\ &=& \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{ds}} (e^{sX} Y e^{-sX}) |_{s=0} \\ &=& XY - YX \\ &=& \mathrm{ad}_X (Y) \end{eqnarray}

よって第1式が示せました。第1式のような関係にあるので、リー群の随伴表現が"随伴"表現なのだとは言えます。


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随伴とキリング形式

ところで、これらの随伴表現の「随伴」とは何なのでしょうか?


随伴と言えば、随伴行列(エルミート随伴)がありました。随伴行列は共役転置を取ったものでしたが、標準内積を用いて次のような式で表すことも出来ます。

 \langle Ax, y\rangle = \langle x, A^{\dagger}y\rangle

実は、この式の”形”が「随伴らしさ」を表しているようです。

圏論という数学の分野では、関手  F, G が「随伴」という条件を  Hom_C (FY, X) = Hom_D (Y, GX) という式で考えるらしく、ここにも特徴的な"形"がありますね)



リー環の随伴表現における「随伴らしい」式としては、次の式があげられます。

 B([X, Y], Z) = B(X, [Y, Z])

この  B(X, Y)キリング形式と呼ばれています。そして上式は

 B(\mathrm{ad}_Y (X), Z) + B(X, \mathrm{ad}_Y (Z))

とも表せますが、このような"形"の式の性質は ad不変性 と呼ばれています。



キリング形式って何やねん!については、双線形形式を知る必要があります。双線形形式とは、内積を一般化したようなものです。つまり、2つの線形空間の元を変数とする2変数関数  F(X, Y)で、各変数ごとに線形性が成り立っているものです。

 F(aX_1+bX_2, Y) = aF(X_1, Y) + bF(X_2, Y) \ \ a,b \in k \ \ (k=\mathbb{R} or \mathbb{C})

 F(X, cY_1 + dY_2) = cF(X, Y_1) + dF(X, Y_2) \ \ c,d \in k


このような双線形形式の一つとしてキリング形式が次のように定義されています。


 B(X, Y) = \mathrm{tr}(\mathrm{ad}_X \mathrm{ad}_Y)


トレースには  \mathrm{tr}(AB) = \mathrm{tr}(BA) と言う性質があるため、キリング形式は対称になっています。

 B(X, Y) = B(Y, X)



キリング形式をいざ計算しようとするならば

 B(X+Y, X+Y) = B(X, X) + 2B(X, Y) + B(Y, Y)

 \therefore B(X, Y) = \frac{1}{2}(B(X+Y, X+Y) - B(X,X) - B(Y,Y))

を使うことで  B(X, X) のみを考えればよくなり、

 (\mathrm{ad}_X)^2 (Z) = [X [X, Z] ]

を分解してそれぞれ求めればよいことになります。


 \mathfrak{gl}(n, \mathbb{R}) の場合は

 B(X, Y) = 2n\mathrm{tr}(XY)−2 \mathrm{tr}(X) \mathrm{tr}(Y)

 \mathfrak{so}(n) の場合は  B(X, Y) = (n-2)\mathrm{tr}(XY)



キリング形式は ad不変性 を持っていましたが、同時に Ad不変性 も持っています。Ad不変とは以下のような場合を指します。

 B(\mathrm{Ad}_g (X), \mathrm{Ad}_g (Y)) = B(X, Y)

この式は

 \displaystyle \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{dt}}B(\mathrm{Ad}_{e^{tZ}} (X), \mathrm{Ad}_{e^{tZ}} (Y))|_{t=0} = B(\mathrm{ad}_Z (X), Y) + B(X, \mathrm{ad}_Z (Y)) = 0

より、ad不変が得られるという関係があります(キリング形式は、もっと広く自己同型写像に不変でもある)。



今回は、構造定数と随伴表現・キリング形式などを扱いました。もう少し圏論などを勉強すれば随伴のあたりを上手くまとめられたかもしれないです…。また、更新が遅れたのは、サークルなどの活動も行っていたからです(すみません)。今後もゆっくり進む感じになりそうです。



参考文献

リー環の話』

リー環の話 (日評数学選書)

リー環の話 (日評数学選書)

『はじめて学ぶリー環 ―線形代数から始めよう』

はじめて学ぶリー環―線型代数から始めよう

はじめて学ぶリー環―線型代数から始めよう

『リー群と表現論』

リー群と表現論

リー群と表現論

『連続群論の基礎(基礎数学シリーズ)』

連続群論の基礎 (基礎数学シリーズ)

連続群論の基礎 (基礎数学シリーズ)

『Lie Groups, Lie Algebras, and Representations: An Elementary Introduction』