2020春から2021春までに触れた本を振り返る

 タイトルの通り、ここ一年で触れた(読んだ・読んでいる・途中まで読んだ)本について振り返ってみます。僕はあまり本の細かい部分を突き詰めるといったのは苦手で、数式を並べられた時しか真面目に読まない癖がありました。したがって、途中からは本で学んだ内容をある程度しっかりノートに取るなどして身につけようとしました。

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数理生物学に入門してみる(3) 振動と波

 今回は教科書の第3, 4章、授業では4~6, 10回目で扱った振動のモデル・時空間パターンについてまとめます。ホジキンハクスレー方程式やチューリングパターンについて触れます。

前回

cake-by-the-river.hatenablog.jp


  • 振動性・興奮性
    • 振動の条件
    • Hodgkin-Huxley 方程式
    • Fitzhugh-Nagumo 方程式
  • 時空間パターン
  • 行波のモデル
    • 化学進行波と界面
    • ケーブル方程式と進行波
  • 補足(末尾)
    • 拡散だけで進行波が起きないことの説明


振動性・興奮性

 細胞の中では周期的に量が変動する場合もあります。ここでは神経の活動電位を表すホジキン-ハクスレー方程式などを例に振動について考えます。

振動の条件

 化学反応で振動する例として有名なものに、Belousov-Zhabotinsky反応(通称BZ反応)があります。BZ反応はマロン酸をブロモ化する複雑な反応ですが、振動のエッセンスだけ取り出してきたモデルとして、ラッセレータがあります。ブラッセレータは分子 X, Y が中間体として A, B (>0) という外部の成分をもとに時間変化する系です。

 A \to X

 2X + Y \to 3X

 B + X \to Y + C

 X \to D

の関係であり、時間変化は全反応速度定数を 1 とおくと

 \displaystyle \frac{d X}{dt} = A - (B+1)X + X^2Y = f(X, Y)

 \displaystyle \frac{d Y}{dt} = BX - X^2Y = g(X, Y)

となります。固定点は

 \displaystyle A - (B+1)X + X^2Y = 0, BX - AX^2Y = 0 \Rightarrow (X^*, Y^*) = (A, \frac{B}{A})

と求まります。固定点でのヤコビ行列

 \displaystyle J = \begin{pmatrix} \frac{\partial \dot{X}}{\partial X} & \frac{\partial \dot{X}}{\partial Y} \\ \frac{\partial \dot{Y}}{\partial X} & \frac{\partial \dot{Y}}{\partial Y} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} B-1 & A^2 \\ -B & -A^2 \end{pmatrix}

固有値  \lambda_1, \lambda_2

 \left| \begin{array}{ccc} B-1-\lambda & A^2 \\ -B & -A^2-\lambda \end{array} \right| = \lambda^2 - (B - A^2 - 1)\lambda + A^2B = 0

を満たすので

 \lambda_1 \lambda_2 = A^2B > 0

 \lambda_1 + \lambda_2 = B - A^2 - 1

という関係が求まります。すなわち、2固有値は同符号で、  B > A^2 + 1 のときに不安定、  B < A^2 + 1 のときは安定になることがわかります。

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数理生物学に入門してみる(2) 入出力

 今回は教科書の第2章、授業では2~4回目で扱った入出力のモデルについてまとめます。化学反応速度論から初めてフィードフォワードなどの回路の話までやります。

前回

cake-by-the-river.hatenablog.jp


  • 入出力の基本の式
  • Ultrasensitivity
    • MWCモデル(アロステリック制御)
    • 超感度性(Ultrasensitivity)
    • push-pull型反応と zero-order Ultrasensitivity
    • 多重リン酸化
  • 入出力と回路
  • 補足(末尾)
    • MWCモデルがシグモイド的になるための条件
    • push-pull型反応の解


入出力の基本の式

 前回の”トグル・スイッチ”の例では、タンパク質の量の二乗を分母に持つ形で数値的に解析しました。これは、反応速度論によって分子の結合・解離を解析することで、より一般的に考えることが出来ます。

結合と解離・Hillの式

 希釈な溶液で分子 L と R が結合・解離する反応は、化学反応速度速度論の考えを用いて

 \displaystyle L + R \ \overset{k_{on}}{\underset{k_{off}}{\rightleftharpoons}} \ LR

 \displaystyle \frac{d [LR]}{dt} = k_{on}[L][R] - k_{off}[LR]

と書けます。定常状態を考えると上式から  [LR] の関係式が現れるため、結合した分子 R の割合(占有率) p

 \displaystyle p = \frac{[LR]}{[R] + [LR]} = \frac{\frac{1}{K_d} [L][R]}{[R] + \frac{1}{K_d} [L][R]} = \frac{[L]}{K_d + [L]}

と書けます。なお  \displaystyle K_d = \frac{k_{off}}{k_{on}} は解離定数です。

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数理生物学に入門してみる(1) 力学系

 東京大学教養学部後期課程には「数理生物学」という授業があります。自分はその授業を受講しているのですが、内容についてまとめることで学びになるだろうと思い、ブログの記事にしていくことにしました。なお、この授業の教科書として『細胞の理論生物学 ダイナミクスの視点から』(東京大学出版会, 2020)が出版されたので、その内容も(怒られない程度に?)踏まえていくことにします。

 初回の今回は、教科書の第1章、授業では1, 2回目で扱った力学系についてまとめます。主に常微分方程式の解析に関係した話になっているようです。


力学系

力学系とは

 生体内で起こる時間変化をシミュレーションするためには、それらを時間変化する複数の変数ととらえ、その動きを考えることが必要になります。即ち、状態に対応した変数  x_1(t), x_2(t), \cdots , x_n(t) の形にモデル化し、それらの時間変化を解析することになります。このとき、各変数の値が時間に応じてどのように変化していくのか(時間発展といいます)を知ることが出来れば、先の変数の状態も計算で予測することが出来ます。つまり、変数の初期値と時間発展の規則が求まれば、その後の全ての時間の状態を求めることが出来ます。

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